顔の脂肪区画(ファットコンパートメント)の老化|脂肪の「移動」と「萎縮」が起きる仕組み

顔の脂肪区画(ファットコンパートメント)の老化|脂肪の「移動」と「萎縮」が起きる仕組み

鏡を見たときに感じる「なんとなく顔が下がった気がする」「昔と顔の形が変わった」という違和感は、単なる皮膚のたるみだけが原因ではありません。

顔の若々しさを形成している脂肪は、一枚のシートではなく複数の「区画(コンパートメント)」に分かれて存在しており、これらが加齢とともに複雑な変化を起こします。

本記事では、顔の構造を支える脂肪区画の老化現象について、特に「移動」と「萎縮」という二つの側面から深く掘り下げ、なぜ顔貌が変化するのかという根本的な理由を解き明かします。

構造的な理解を深めることで、適切なケアの選択肢が見えてきます。

目次

顔の解剖学とファットコンパートメントの基礎知識

顔の若々しさや立体感を維持するために、脂肪組織は極めて重要な役割を果たしています。

顔の脂肪は全体でひとつの塊として存在するのではなく、境界膜によって仕切られた複数の小さな部屋、すなわち「ファットコンパートメント」として独立して配置しています。

この構造を理解することは、老化による顔の変化を紐解く第一歩となります。

浅層脂肪と深層脂肪の違い

顔の脂肪には明確な階層が存在し、皮膚のすぐ下にある「浅層脂肪」と、筋肉や骨に近い深い場所にある「深層脂肪」の二つに大別できます。この二つは性質や役割が大きく異なります。

浅層脂肪は表情筋の上に位置し、顔のなめらかな輪郭や柔らかい印象を作ります。一方、深層脂肪は骨のすぐ上に位置し、顔の土台としてボリュームを出し、皮膚や組織全体を持ち上げる役割を担っています。

老化現象を考える際、これら二つの脂肪層がそれぞれ異なる挙動を示す点を認識することが重要です。

浅層脂肪は重力の影響を受けて下へ下へと移動する傾向があるのに対し、深層脂肪は加齢とともにボリュームが減少し、しぼんでいく傾向があります。

この相反する変化が同時に起こることで顔の凹凸が激しくなり、老けた印象を形成します。

脂肪層による役割と特徴の整理

分類主な役割老化時の主な変化
浅層脂肪顔の輪郭形成、皮膚の質感維持重力による下方への移動(下垂)
深層脂肪顔の土台支持、立体感の維持代謝低下やホルモン影響による萎縮(減少)

顔のバランスを支える靭帯の役割

ファットコンパートメントの位置を正常に保つために働いているのが、「支持靭帯(リガメント)」と呼ばれる繊維状の組織です。

この靭帯は骨から皮膚に向かって木のように立ち上がり、脂肪区画や皮膚を骨格にしっかりと繋ぎ止めるアンカー(錨)の役割を果たします。

靭帯がピンと張っている状態であれば、脂肪は本来あるべき高い位置に留まります。しかし、靭帯も加齢とともに弾力を失い、緩んで伸びてしまいます。

アンカーが緩むと、支えを失った脂肪区画は重力に抗えずにずり落ちていきます。これが「たるみ」の根本的な原因の一つです。脂肪そのものの変化だけでなく、それを支える靭帯の劣化が複合的に絡み合っているのです。

加齢による骨格の変化との関係

脂肪や皮膚の土台となる頭蓋骨もまた、一生変わらないものではありません。年齢を重ねると骨密度が低下し、骨自体が痩せて縮んでいきます。特に眼窩(目のくぼみ)は広がり、顎の骨は後退し、こめかみ部分は凹みます。

骨格という一番深い土台が小さくなると、その上にある深層脂肪や筋肉、皮膚といった軟部組織が余ってしまいます。テントのポールが短くなるとテント生地がたるむのと同じ理屈です。

骨の萎縮は深層脂肪の萎縮と相まって、顔全体のボリュームロスを加速させ、表面の皮膚に余剰感を生み出します。

このように、顔の老化は骨、筋肉、脂肪、皮膚という全層で進行する現象であり、それらが相互に影響し合っています。

ファットコンパートメントの老化と顔貌変化の連鎖

顔の脂肪が独立した区画(コンパートメント)に分かれているという事実は、老化が顔全体で均一に進むのではなく、部分ごとに不均一に進むことを意味します。

隣り合う区画同士で老化のスピードや変化の仕方が異なるため、その境界線に段差や溝が生じます。これが深いシワや独特の凹凸として現れ、顔の印象を劇的に変えてしまうのです。

区画ごとの独立した老化進行

ファットコンパートメントは、それぞれが独立した血管支配や代謝機能を持っています。そのため、ある区画は脂肪が増大して膨らむ一方で、隣の区画では脂肪が減少して凹むという現象が起こります。

例えば、頬の前面にある脂肪区画は比較的ボリュームを保ちやすいのに対し、その外側や目の下の区画は萎縮しやすい傾向があります。

このように各区画がバラバラに変化することで、若い頃には滑らかに繋がっていた顔の表面に波打つような凹凸が生じます。

なめらかな曲面で構成されていた顔がゴツゴツとした平面の集合体のように変化していくのは、この区画ごとの老化進行の差異が大きな要因です。

重力の影響だけではない下垂の真実

一般的に「たるみ」というと、皮膚が伸びて垂れ下がるイメージが強いですが、実際には中身である脂肪区画の位置移動が大きく関与しています。

特に浅層脂肪は組織の結びつきが比較的緩いため、重力の影響をダイレクトに受けます。しかし、単に真下に落ちるわけではありません。

顔の靭帯の配置や筋肉の動きによって、斜め内側方向やフェイスライン方向へと、決まったルートを辿って移動します。この「移動」こそが、特定の部分に脂肪を溜め込み、深い溝を作る原因となります。

皮膚が伸びたからたるむのではなく、中身が移動して下の皮膚を押し出し、上の皮膚を余らせることでたるみが生じるのです。

顔貌変化の主な特徴

  • 顔の重心が下がり四角いフォルムになる
  • こめかみや頬骨下が痩せて影ができる
  • 口元やフェイスラインに脂肪が溜まる

若々しい顔立ちと老けた印象の決定的な差

若々しい顔立ちは一般的に「逆三角形」または「ハートシェイプ」と表現します。頬の高い位置にボリュームがあり、顎に向かってシャープに引き締まっている状態です。

これは、脂肪区画が高い位置に留まり、深層脂肪が十分に組織を押し上げていることで成立しています。

対して、老化が進んだ顔立ちは脂肪の移動と萎縮により「正三角形」や「ひょうたん型」へと変化します。上顔面や中顔面のボリュームが減り、下顔面に移動した脂肪が蓄積することで、顔の下半分が重たく広がった印象になります。

この重心の変化こそが、他人が見たときに「老けた」と感じる最大の視覚的要因となります。シミや小ジワ以上に、この輪郭(シルエット)の変化が年齢印象を決定づけます。

深層脂肪の萎縮が引き起こすボリュームロス

顔の老化現象の中で見落とされがちですが、非常に大きな影響を与えるのが「深層脂肪の萎縮」です。植物が枯れるように、あるいは風船の空気が抜けるように、顔の奥深くにある脂肪のボリューム自体が減ってしまう現象です。

これにより、皮膚を内側からパンと張らせていた圧力が失われ、表面に様々なトラブルが現れます。

こめかみや頬のコケが生じる理由

深層脂肪の中でも、こめかみや頬骨の外側に位置する脂肪区画は加齢による萎縮の影響を特に受けやすい部位です。

若い頃はふっくらとしていたこめかみが年齢とともに窪んで骨の形が浮き出てくるのは、この深層脂肪が減少するからです。

こめかみが痩せると顔の上半分の印象が貧相になり、疲れたように見えたり、実年齢以上に老けて見えたりします。

また、頬の外側がこけることで、頬骨が過度に目立つようになり、顔のラインが波打ったようにゴツゴツとしてしまいます。これは皮膚のたるみではなく、中身の充填物が減ったことによる形状の変化です。

土台が崩れることによる皮膚の余り

深層脂肪は顔の皮膚や筋肉を内側から支える「テントの支柱」のような役割を果たしています。この支柱が細くなったり短くなったりすると、上を覆っているテント生地(皮膚)は余ってしまいます。

急激にダイエットをして痩せた時に、皮膚がたるんでシワっぽくなるのと同じ現象が、顔の内部でゆっくりと進行していると想像してください。

深層脂肪が萎縮して体積が減ると、本来その脂肪が占めていたスペースに空洞ができ、行き場を失った皮膚が重力に従って垂れ下がります。

つまり、表面の皮膚が伸びたわけではなく、中身が減ったことによる「相対的な皮膚の余剰」が、深層脂肪の萎縮によって引き起こされるのです。

目の下のクマやゴルゴラインの形成要因

目の下にある深層脂肪(SOOFなどと呼ばれます)が萎縮すると、眼球を支えているクッションが減ることになり、目元の構造が変化します。

さらに、その上にある皮膚や筋肉との間に隙間ができ、目の下が窪んで影ができます。これが「黒クマ」や「影クマ」と呼ばれるものの正体の一つです。

また、頬の中心部分の深層脂肪が痩せると、皮膚を支えきれずに斜めに走るラインが現れます。これがいわゆる「ゴルゴライン」です。

ゴルゴラインは単なるシワではなく、内部組織のボリュームロスによって生じる溝であるため、化粧品などで表面を保湿するだけでは改善が難しいのが特徴です。

組織のボリュームを取り戻すか、引き上げるようなアプローチが必要となります。

深層脂肪の萎縮が招く主な症状

萎縮する部位生じる見た目の変化印象への影響
こめかみ凹み、骨格の浮き出し疲労感、老け込み
中顔面(目の下〜頬)ゴルゴライン、平坦化不機嫌、生気がない
口角周辺マリオネットラインの強調不満げ、下がり口角

浅層脂肪の移動と下垂によるフェイスラインの崩れ

深層脂肪が「萎縮」するのに対し、皮膚のすぐ下にある浅層脂肪は「移動」と「下垂」が主な老化現象となります。

もともと高い位置にあった脂肪が重力と靭帯のゆるみによって雪崩のように下へ滑り落ち、特定の位置でせき止められることで、顔の輪郭を大きく変えてしまいます。

ほうれい線が深くなる構造的要因

ほうれい線は、単に笑いジワが深くなったものではありません。その主な原因は頬の浅層脂肪(メーラーファット)の下垂にあります。

若いうちは頬骨の高い位置にあるこの脂肪が、加齢とともに下内側へと移動し、ほうれい線の上に覆いかぶさるように蓄積します。

一方で、口元の皮膚や筋肉は靭帯によって強く骨に固定されているため、落ちてきた脂肪はそこでせき止められます。この「落ちてきた脂肪の膨らみ」と「固定された口元」の段差が、深いほうれい線として刻まれるのです。

つまり、ほうれい線が深くなるのは、シワそのものが深くなるというより、その上にある脂肪の厚みが増すことで影が濃くなる現象と言えます。

マリオネットラインとジョールファットの関係

口角から顎にかけて走るマリオネットラインもまた、脂肪の移動が大きく関係しています。

頬から移動してきた脂肪や、口横にある脂肪(ジョールファット)が、重力によって下顎のラインを超えて垂れ下がります。これを「ブルドッグ顔」と表現することもあります。

この部分でも、顎にある靭帯が脂肪の流れをせき止めるダムのような役割をするため、その境界線で皮膚が折れ曲がり、マリオネットラインが形成されます。

フェイスラインが直線的でなくなり、波打ったような形状になるのは、このジョールファットの下垂が原因です。

脂肪の重みに耐えられなくなる保持靭帯

浅層脂肪の移動を食い止めているのは、前述した「支持靭帯」ですが、これには限界があります。

脂肪自体が肥大化したり、重力による負担がかかり続けたりすると、靭帯は徐々に伸びてしまいます。一度伸びきってしまったゴムが元に戻らないように、伸びた靭帯は自然には元の張力を取り戻せません。

特に、頬骨の下にある靭帯や咬筋(噛む筋肉)の前にある靭帯が緩むと、頬の脂肪を一気に支えきれなくなり、雪崩のような脂肪の移動を引き起こします。これが顔全体の下垂を決定的なものにします。

したがって、脂肪の重みをコントロールすることと、靭帯への負担を減らすことは、若々しい輪郭を保つ上で非常に大切です。

脂肪移動の経路と形成される悩み

移動する脂肪移動方向形成される悩み
メーラーファット(頬)斜め下内側へ深いほうれい線
ジョールファット(口横)真下(顎ライン)へフェイスラインの崩れ、マリオネットライン
眼窩脂肪(目の下)前方へ突出目袋(アイバッグ)、目元のたるみ

脂肪区画の分離とギャップが生む凹凸

顔の脂肪はひとつの塊ではなく、複数の区画に分かれているとお話ししました。若い頃は、これらの区画同士が密接し、パンパンに詰まった状態であるため、区画の境界線は目立ちません。

しかし、老化によってそれぞれの区画が萎縮したり、位置がずれたりすることで、区画と区画の間に隙間(ギャップ)が生じます。この隙間が、顔表面の凹凸や影として現れます。

境界線が目立ち始めるメカニズム

ファットコンパートメントの間には線維性の隔壁が存在します。加齢により脂肪のボリュームが減ると、それぞれの区画が独立した「島」のように孤立し始めます。

例えば、目の下の脂肪区画と頬の脂肪区画の間にある境界が顕著になると、そこに深い溝が走るようになります(通称:インディアンラインやミッドチークライン)。

これは、隣り合う脂肪区画が互いに離れていったり、片方だけが下がったりすることで生じる「地割れ」のような現象です。

肌表面が滑らかさを失い、凸凹とした印象を与えるのは、この区画同士の結合が弱まり、境界線が露わになるためです。

筋肉の動きと脂肪区画の不調和

表情を作る筋肉(表情筋)と、その上にある脂肪区画の動きにもズレが生じてきます。

若い頃は筋肉の動きに合わせて脂肪もスムーズに動きますが、老化により脂肪区画の接着が緩むと、筋肉の動きに対して脂肪が遅れて動いたり、不自然に膨らんだりします。

笑った時に変な場所にシワが寄ったり、脂肪が盛り上がったりするのは、筋肉と脂肪区画の連動性が低下している証拠です。特に口周りや目元などよく動く部分では、この不調和が顕著に現れ、表情を作った時の老け見えに繋がります。

加齢により目立ちやすくなる境界線

  • 目の下と頬の間の境界(ティアトラフ・インディアンライン)
  • 頬の脂肪と口元の脂肪の境界(ほうれい線)
  • 顎周りの脂肪区画の境界(マリオネットライン)

老化における「谷」と「山」の形成

ファットコンパートメントの老化を地形に例えるとわかりやすくなります。

萎縮してボリュームが減った部分は「谷」となり、移動して脂肪が集まった部分は「山」となります。老化が進んだ顔は、この山と谷の高低差が激しくなっている状態です。

例えば、目の下は窪んで「谷」になり、その下の頬(ほうれい線の上)は脂肪が溜まって「山」になります。この高低差が大きければ大きいほど、光が当たった時に強い影が落ち、老けた印象を強調します。

美容医療などの対策においても、単に引き上げるだけでなく、この「谷を埋め、山を小さくする」という地形の平坦化作業が重要になります。

老化を加速させる外的要因と生活的要因

ここまでファットコンパートメントの構造的な変化について解説しましたが、これらの変化は自然な加齢プロセスだけでなく、日々の生活習慣や環境要因によって加速します。

何気なく過ごしている日常の中に、脂肪の萎縮や移動を早めてしまう原因が潜んでいます。

紫外線による真皮と皮下組織へのダメージ

紫外線、特にUVA(紫外線A波)は肌の奥深くにある真皮層だけでなく、さらにその下の皮下組織や靭帯にも悪影響を及ぼします。UVAは「生活紫外線」とも呼ばれ、窓ガラスを通過して室内にいても肌に届きます。

この紫外線がコラーゲンやエラスチンを変性させ、脂肪区画を支える靭帯や隔壁の弾力を奪います。支えが弱くなれば、当然脂肪の移動や下垂は早まります。

また、紫外線による酸化ストレスは脂肪細胞の機能にも影響を与え、萎縮を促進する要因となり得ます。日焼け止めを塗ることは、シミを防ぐだけでなく、顔の構造(たるみ)を守るためにも重要です。

急激な体重変動が与える脂肪への影響

短期間での大幅な体重の増減は、顔のファットコンパートメントに大きな負担をかけます。急激に太ると脂肪細胞が肥大化し、それを支える皮膚や靭帯が引き伸ばされます。

その後、急激に痩せると中身の脂肪だけが小さくなり、伸びきった皮膚や靭帯は元に戻らず、たるみとして残ります。いわゆる「風船がしぼんだ状態」です。

特に年齢を重ねてからの過度なダイエットは深層脂肪の萎縮を招きやすく、頬がこけたり、シワが増えたりする原因となります。

顔の若さを保つためには適正体重を維持し、変動幅を小さくすることが大切です。

姿勢や表情の癖が作る偏った老化

スマートフォンの長時間使用によるうつむき姿勢や猫背などは、重力が顔の脂肪を垂直に引き下げるのを手助けしてしまいます。顔が下を向いている時間が長ければ長いほど、脂肪は前方かつ下方へと移動しやすくなります。

また、片側だけで噛む癖や、表情の作り方の偏りは左右の筋肉の発達度合いに差を生み、それが脂肪区画の配置にも影響します。

結果として、顔の左右でたるみ方に差が出たり、片方だけほうれい線が深くなったりします。日頃の姿勢や表情の使い方は、長い時間をかけて脂肪の位置関係に影響を与えます。

生活習慣が与える構造的ダメージ

要因主な影響構造的な結果
紫外線(UVA)靭帯・結合組織の弾力低下脂肪を支えきれず下垂が加速
体重変動皮膚の伸縮、脂肪の増減皮膚の余剰、組織のゆるみ
うつむき姿勢物理的な重力負荷の増大下顔面への脂肪蓄積、二重顎

ファットコンパートメント理論に基づいた対策の考え方

顔の老化が「脂肪の萎縮」と「脂肪の移動」によって引き起こされていることを理解すると、効果的な対策の方向性が見えてきます。

単に皮膚表面を引っ張るだけでは解決しない問題に対し、立体的な視点を持つことが必要です。

減った部分を補うボリューム回復の重要性

深層脂肪が萎縮して生じた「谷」や「凹み」に対しては、失われたボリュームを補うという考え方が必要です。

こめかみや頬のコケ、ゴルゴラインなどは皮膚がたるんでいるのではなく中身が減っている状態ですので、その減った分を何らかの形で埋め戻すことで、元の若々しい輪郭に近づけることができます。

これは、しぼんだ風船に再び空気を入れると表面のシワが伸びてハリが出るのと同じ原理です。ボリュームを補うことで余っていた皮膚が持ち上がり、リフトアップ効果も期待できます。

下がった組織を元の位置に戻す意識

浅層脂肪が移動して生じた「山」や「たるみ」に対しては、下がってしまった組織を元の位置に戻す、あるいは移動した脂肪を減らすというアプローチが必要です。

重力によって落ちてきた脂肪(メーラーファットやジョールファット)を本来あった高い位置に戻して固定することで、フェイスラインのもたつきや深いほうれい線を改善します。

これは物理的に組織を移動させる考え方であり、緩んだ靭帯の代わりとなる支えを作るイメージです。

皮膚表面だけでなく立体的な構造へのアプローチ

スキンケアで肌の表面を保湿し、ハリを出すことはもちろん大切ですが、それだけではファットコンパートメントの変化による骨格レベルの老化には対抗しきれません。

老化は「骨・筋肉・脂肪・靭帯・皮膚」の全ての層で起こっています。したがって、自分の悩みが「皮膚の衰え」によるものなのか、それとも「内部構造(脂肪の移動や萎縮)」によるものなのかを見極めることが重要です。

構造的な変化に対しては顔を立体として捉え、深部からのアプローチを検討することが、自然で若々しい印象を取り戻すための鍵となります。

現象に合わせた対策の方向性

現象状態アプローチの方向性
脂肪の萎縮ボリューム不足、凹み、やつれ「足す」:減った体積を補い、内側から張りを出す
脂肪の移動下垂、脂肪の蓄積、もたつき「戻す・減らす」:位置を引き上げる、余分な脂肪を減らす
靭帯のゆるみ支えがない、全体的なズレ「固定する」:組織を繋ぎ止め、リフトアップする

よくある質問

脂肪の萎縮はマッサージで改善しますか?

マッサージで深層脂肪の萎縮(ボリューム減少)そのものを回復させることはできません。

マッサージは血流やリンパの流れを良くし、むくみを取る効果は期待できますが、減ってしまった脂肪細胞を増やすことは物理的に不可能です。

逆に、強い摩擦や圧力をかけすぎると、脂肪を支えている靭帯(リガメント)を痛めたり、皮膚を伸ばしてしまったりするリスクがあります。

特に自己流の強いマッサージは、たるみを悪化させる要因にもなり得るため、優しく行うことが大切です。

痩せている人はファットコンパートメントの老化が早いですか?

痩せている人は、もともと脂肪の絶対量が少ないため、加齢による深層脂肪の萎縮が始まると、こめかみの凹みや頬のコケなどが目立ちやすい傾向にあります。

ふっくらしている人に比べてシワっぽさや骨っぽさが出やすく、やつれた印象になりがちです。一方で、脂肪が少ない分、重力による下垂の影響(ブルドッグ顔など)は受けにくいという側面もあります。

体型によって老化の現れ方にタイプがあると言えます。

脂肪移動と皮膚のたるみは別物ですか?

厳密には別の現象ですが、密接に関係しています。「脂肪移動」は中身の位置が変わることであり、「皮膚のたるみ」は表面の皮が伸びたり弾力を失ったりすることです。

しかし、中身の脂肪が移動して下がると、その重みで皮膚も一緒に引き伸ばされます。また、中身が減って萎縮すると、皮膚が余ってたるみます。

このように、脂肪の変化が皮膚のたるみを誘発・悪化させる大きな原因となっているため、両者はセットで考える必要があります。

若い頃から気をつけるべきことはありますか?

紫外線対策と極端な体重変動を避けることが最も重要です。紫外線は脂肪を支える靭帯や皮膚の弾力を破壊し、将来的な下垂を早めます。

また、10代や20代での過度なダイエットとリバウンドの繰り返しは、皮膚と内部組織の結合を弱め、早期のたるみリスクを高めます。

姿勢の改善や、表情筋をバランスよく使うことも、長期的な予防として意味があります。構造的な老化を完全に止めることはできませんが、進行を緩やかにすることは可能です。

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この記事を書いた人

Dr.芝容平のアバター Dr.芝容平 Pono clinic院長

日本美容外科学会認定専門医

防衛医科大学校卒業後、皮膚科医として研鑽を積み、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医を取得(〜2022年)。その後、大手美容外科にて院長や技術指導医を歴任し、多数の医師の指導にあたる。 「自分の家族や友人に勧められる、誠実で質の高い美容医療」を信条とし、2023年にPono clinicを開業。特にライフワークとする「切らないクマ治療(裏ハムラ・裏ミッドフェイスリフト)」や中顔面の若返り手術において、医学的根拠に基づいた高い技術力に定評がある。

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