創傷治癒とコラーゲン増生(リモデル)|あえて肌を傷つけ再生させる美容医療の原理

美しく若々しい肌を取り戻すために、なぜ私たちは自らの肌にあえてダメージを与えるのでしょうか。
その答えは人体に備わった強力な回復システム「創傷治癒」と、それに伴う組織の再構築「コラーゲン増生(リモデル)」にあります。
たるみやしわといった老化現象は肌内部の構造が崩れることで生じますが、美容医療はこの崩れた構造を「治す力」を利用して立て直します。
本記事では、一見矛盾しているように思える「傷つけることで美しくなる」という生命科学的な原理を紐解き、肌が本来の弾力を取り戻すまでのドラマチックな回復の道筋を詳細に解説します。
自己再生能力を美容に応用する創傷治癒の基本概念
美容医療における治療の多くは肌に意図的なダメージを与え、体がその傷を修復しようとするエネルギーを利用して若返りを図るという考え方に基づいています。
ここでは、怪我を治す生理機能がどのようにして美肌作りへと転換されるのか、その根本的な原理について解説します。
意図的なダメージが肌再生のスイッチを入れる
私たちの体は切り傷や火傷などの損傷を受けると、生命維持のために即座に修復活動を開始します。この一連の働きを創傷治癒と呼びます。
通常、老化によって代謝が緩やかになった肌細胞は外部からの強い刺激がない限り、劇的な変化を起こすことはありません。しかし、美容医療においては制御された熱や物理的な刺激を与えることで、肌内部に「緊急事態」を知らせるシグナルを送ります。
このシグナルを受け取った細胞は、損傷部位を修復するためにコラーゲンやエラスチンといった結合組織の生成を一気に加速させます。
つまり、老化という緩やかな下り坂にある肌に対して、人為的に修復のスイッチを入れることで、組織を新しく作り変えるきっかけを与えるのです。
破壊と再生のバランスが生む若返り効果
「傷をつける」といっても、無秩序に肌を破壊するわけではありません。美容医療において重要なのは組織が回復可能な範囲内で、かつ再生反応を最大限に引き出すレベルのダメージを与えることです。
ダメージが弱すぎれば細胞は活性化せず、強すぎれば不可逆的な傷跡(瘢痕)を残すリスクが生じます。この絶妙なコントロールこそが、医療機器や施術者の技術に求められる点です。
適切な強度の刺激は、古い組織を部分的に変性・除去し、そこを新しい健康な組織で置き換えるという代謝のサイクルを強力に後押しします。
この「破壊」と「再生」の繰り返しによって、肌は徐々に密度を高め、たるみのない引き締まった状態へと変化していきます。
加齢による自然老化と創傷治癒による再生の違い
自然な老化と、創傷治癒を利用した再生には明確な違いがあります。
老化は組織が徐々に菲薄化し機能を失う現象ですが、創傷治癒反応を利用した治療は、一時的に組織の活性度を若い頃に近いレベルまで引き上げる介入です。
| 比較項目 | 自然老化による変化 | 創傷治癒刺激による反応 |
|---|---|---|
| 細胞の活動 | 代謝が低下し、細胞分裂の速度が緩やかになる | 修復のために細胞分裂と代謝が活発化する |
| コラーゲン量 | 分解が生成を上回り、年々減少していく | 損傷修復のために新規生成が促進され増加する |
| 血流と栄養 | 毛細血管が減少し、栄養供給が滞りやすくなる | 修復現場へ栄養を送るため、血管新生が起こる |
炎症反応は再生への第一歩である
多くの人が「炎症」という言葉にネガティブなイメージを持っていますが、組織再生の文脈において炎症は必要不可欠な初期反応です。
施術直後に見られる赤みや熱感、腫れといった症状は、体がダメージを認識し、修復部隊である免疫細胞や成長因子を現場に集結させている証拠です。この急性期の炎症があるからこそ、その後に続く組織の増生や再構築がスタートします。
美容医療では、あえてこの炎症をコントロール下で引き起こし、漫然とした慢性炎症ではなく、組織修復につながる建設的な急性炎症を利用します。この初期段階を正しく経過させることが、最終的な仕上がりの良し悪しを左右します。
組織修復の時系列とコラーゲン増生の仕組み
肌がダメージを受けてから再生するまでの道のりは、いくつかの明確な段階に分かれて進行します。
出血を止める段階から始まり、新しい組織で埋め合わせ、最終的に強固な構造へと成熟させるこの一連の流れを理解することは、治療後のダウンタイムや効果の発現時期を知る上で非常に重要です。
炎症期におけるサイトカインの放出と細胞遊走
施術による刺激が加わった直後から数日間は「炎症期」と呼ばれます。この時期、損傷した細胞や血管からは、周囲の細胞に対して応援を呼ぶための信号物質であるサイトカインが大量に放出されます。
これに反応して、好中球やマクロファージといった免疫細胞が患部に集まり、壊れた組織の残骸を掃除(貪食)し始めます。同時に、これらの免疫細胞は線維芽細胞を活性化させるための成長因子(グロースファクター)を分泌します。
つまり、炎症期は単に腫れているだけではなく、次の段階で組織を作り出す職人たちを現場に呼び寄せ、作業環境を整えるための重要な準備期間として機能しています。
増殖期における線維芽細胞の活発な活動
炎症が落ち着き始めると、肌の修復は「増殖期」へと移行します。これは施術後数日から数週間にわたって続く、再生のメインイベントとも言える時期です。
炎症期に呼び寄せられた線維芽細胞は、成長因子の指令を受けて活発に分裂・増殖し、傷ついた部分を埋めるための新しい組織を作り出します。
このとき大量に産生されるのが、肌のハリの源となるコラーゲンや、水分を保持するヒアルロン酸などの基質です。また、新しい組織に酸素や栄養を届けるための新しい毛細血管もこの時期に急速に形成されます。
この段階での肌は内部で急ピッチな工事が行われている状態であり、十分な栄養と休息を与えることが、良質な組織を作る鍵となります。
創傷治癒の3つの段階と主な現象
この複雑な生体反応を整理して理解するために、各段階で体の中で何が起きているのかを時系列で確認します。
| 段階 | 期間の目安 | 主な生理的現象 |
|---|---|---|
| 炎症期 | 直後 〜 3日程度 | 免疫細胞の遊走、壊死組織の除去、成長因子の放出 |
| 増殖期 | 数日 〜 3週間 | 線維芽細胞の増殖、肉芽組織の形成、コラーゲン産生 |
| 成熟期 | 3週間 〜 半年 | コラーゲンの再配列、組織強度の向上、瘢痕の安定化 |
成熟期とリモデリングによる組織の再構築
増殖期でとりあえずの修復が終わると、肌は「成熟期(再構築期)」に入ります。この時期は数ヶ月から半年、長い場合は1年以上続くこともあります。増殖期に急いで作られたコラーゲンは、実は並び方が不規則で強度も不十分な状態です。
成熟期に入ると、体は余分な血管や細胞を減らしながら、乱雑に配置されたコラーゲン線維を太く強靭な束へと束ね直し、整然と並べ替える作業を行います。これを「リモデリング(再構築)」と呼びます。
美容医療の効果が施術直後だけでなく、1ヶ月後、3ヶ月後と時間を追うごとに高まっていくように感じるのは、このリモデリングによって肌内部の構造がより緻密で丈夫なものへと完成度を高めていくためです。
コラーゲンとエラスチンの種類と役割の変化
「コラーゲンを増やす」と一言で言っても、実はコラーゲンには種類があり、それぞれ役割が異なります。
若々しい肌特有の柔軟性や弾力を取り戻すためには単に量を増やすだけでなく、質の高いコラーゲンや、それを支えるエラスチンの働きに着目することが大切です。
ベビーコラーゲンと呼ばれるIII型コラーゲンの重要性
皮膚に存在するコラーゲンには、主にI型とIII型の2種類があります。大人の皮膚の大部分を占めるのはI型コラーゲンで、太く硬い線維として皮膚の強度や厚みを支えています。
一方、III型コラーゲンは「ベビーコラーゲン」とも呼ばれ、細く柔らかい線維で、組織に柔軟性や瑞々しさを与える役割を持っています。
赤ちゃんの肌がプルプルと柔らかいのは、このIII型コラーゲンの比率が高いためです。創傷治癒の初期段階である増殖期には、このIII型コラーゲンが優先的に合成されます。
美容医療による刺激は加齢とともに減少しがちなIII型コラーゲンの生成を一時的にブーストさせ、柔らかく弾力のある肌質を取り戻すチャンスを作り出します。
エラスチンが担う皮膚の弾力とスナップバック
コラーゲンが肌の「強度」や「骨組み」だとすれば、エラスチンは肌の「弾力」や「バネ」の役割を果たします。
皮膚を指で押した後にすぐ元の形に戻るのはエラスチンの働きによるものです(スナップバック現象)。エラスチンはコラーゲン線維同士を結びつけるように存在し、肌の伸縮性を支えていますが、一度壊れると再生しにくいという特徴があります。
しかし、近年の研究や治療技術の進歩により、真皮層深部への適切な熱刺激などがエラスチンの変性を防ぎ、新たな生成を促す可能性が示唆されています。
たるみ治療においてはコラーゲンの増生だけでなく、このエラスチンを含めた真皮マトリックス全体の再構築が、引き締まったフェイスラインを作る上で重要視します。
創傷治癒がもたらす皮膚構成要素の変化
治療によって肌内部の構成要素がどのように変化し、それが見た目の若返りにどう寄与するのかを整理します。
- III型コラーゲンの増加
創傷治癒の初期に生成され、肌に柔軟性と瑞々しさを与え、キメを整える。 - I型コラーゲンの再構築
成熟期にかけて太く強固な線維へと置き換わり、肌の厚みとリフトアップ力を支える。 - エラスチンの活性化
熱変性による収縮とそれに続く修復過程で、肌の弾力性(ハリ)が向上する。 - 基質の充実
ヒアルロン酸などの細胞外基質が増え、肌の水分保持能力とボリューム感が改善する。
加齢による比率の変化とリモデルの意義
年齢を重ねると皮膚内のコラーゲン総量が減るだけでなく、I型とIII型の比率も変化し、硬くて柔軟性のないI型の割合が増えていきます。これが、年齢肌が硬くゴワつきやすくなる原因の一つです。
創傷治癒を利用したリモデル(再構築)治療の意義は、単にコラーゲンを増やすことだけではありません。組織を一度リセットし、修復過程でIII型コラーゲンを豊富に含む新しい組織を作り直すことで、若年層の肌が持っていた理想的なコラーゲンバランスに近づける点にあります。
つまり、リモデルとは「古い建物を補強する」のではなく、「新しい建材で建て直す」ことに近い生物学的なアンチエイジングアプローチなのです。
熱エネルギーによるタンパク変性と収縮効果
高密度焦点式超音波(HIFU)や高周波(RF)などの治療器は、熱エネルギーを利用して肌深部にアプローチします。
これらの機器は物理的に皮膚を切開することなく、熱によるタンパク質の変化を利用して、即時的な引き締めと長期的な再生の両方を実現します。
熱変性による即時的な引き締め作用
生肉を加熱すると縮むのと同様に、人間の皮膚や筋膜に含まれるコラーゲンタンパク質も、一定の温度(約60℃〜65℃前後)を超えると熱変性を起こして収縮します。これを「熱凝固」と呼びます。
HIFUやRF治療を受けた直後に顔が引き締まって見えるのは、この熱変性による物理的な組織の収縮が主な要因です。
伸びきったゴムが熱で縮むように、たるんだ皮膚やSMAS筋膜(表在性筋膜系)がキュッと縮まることで、即効性のあるリフトアップ効果を実感します。この反応は創傷治癒が始まる前の、物理化学的な変化と言えます。
ヒートショックプロテインと細胞の修復指令
熱ストレスを受けた細胞内では、「ヒートショックプロテイン(HSP)」と呼ばれる特殊なタンパク質が発現します。HSPは傷ついたタンパク質を修復したり、細胞を熱ダメージから守ったりする役割を持っています。こ
のHSPの増加がシグナルとなり、線維芽細胞に対して「組織がダメージを受けたので、急いで修復せよ」という指令が飛びます。
つまり、熱エネルギーによる治療はタンパク質を収縮させる物理的な作用と、細胞レベルでの修復プログラムを起動させる生物学的な作用の二段構えで構成します。この修復指令こそが、数ヶ月にわたって続くコラーゲン増生の出発点となります。
治療機器による熱作用の深度と温度の違い
使用するエネルギーの種類によって、熱が届く深さや作用の仕方が異なります。ターゲットとなる層に合わせた適切な機器選択が重要です。
| エネルギー種類 | 主な作用深度 | 熱の特徴と効果 |
|---|---|---|
| HIFU(超音波) | SMAS筋膜〜真皮深層 | 点状に高温(65℃〜70℃)を発生させ、深い層からの強力な引き上げを図る |
| RF(高周波) | 真皮層〜皮下組織 | 広範囲に立体的な熱(40℃〜60℃)を与え、皮膚のタイトニングと脂肪層の引き締めを行う |
| レーザー | 表皮〜真皮浅層 | 光エネルギーが特定の色素や水分に反応し、肌表面の質感改善や浅い層のハリを出す |
長期的なリモデリング効果の発現
熱によるダメージを受けた組織は、その後1ヶ月から3ヶ月かけてゆっくりと新しい組織に置き換わっていきます。
この期間中、線維芽細胞は活発にコラーゲンを作り続けます。HIFUや強力なRF治療の効果のピークが施術直後ではなく、1〜2ヶ月後に訪れるのはこのためです。
熱凝固した古いコラーゲンがマクロファージによって分解・吸収され、そのスペースに新しく健康なコラーゲンが密に敷き詰められることで肌の厚みと弾力が増し、長期的なリフトアップ効果が持続します。
この「時間差で現れる効果」こそが、創傷治癒を利用した美容医療の大きな特徴です。
物理的・化学的刺激によるマイクロインジュリー
熱を使わず、微細な針や薬剤を用いて物理的または化学的に肌を刺激する方法も、創傷治癒の原理を応用した代表的な治療です。これらは特に肌質の改善や毛穴の引き締め、ニキビ跡の修復において強力な効果を発揮します。
マイクロニードリングによる物理的穿孔と再生
ダーマペンやポテンツァなどに代表されるマイクロニードリング治療は、極細の針を用いて皮膚に垂直に微細な穴(マイクロインジュリー)を無数に開ける手法です。
一見すると痛々しく思えますが、この微細な傷は肉眼では見えないほど小さく、出血もわずかです。しかし、皮膚の細胞にとっては「組織が破壊された」という明確な物理的刺激となります。
この物理的な損傷がトリガーとなり、傷を埋めるために周囲の細胞が一斉に活性化します。熱損傷がないため、熱による色素沈着のリスクが比較的低く、回復が早いのが特徴です。
また、針で開けた穴を通じて薬剤を直接真皮層へ届けるドラッグデリバリー効果も期待でき、薬剤の有効成分と創傷治癒の相乗効果で再生を促します。
ケミカルピーリングによる化学的な角質剥離と真皮刺激
酸性の薬剤を塗布して皮膚表面を溶かすケミカルピーリングも広義の創傷治癒を利用しています。古い角質を化学的に強制剥離することで基底層での細胞分裂を促し、表皮のターンオーバーを正常化します。
さらに、高濃度の薬剤や浸透性の高い薬剤(TCAなど)を使用する「ディープピーリング」や「浸透型ピーリング」では、薬剤が真皮層まで到達し、軽度の炎症を引き起こします。
この化学的刺激が真皮の線維芽細胞を刺激し、コラーゲンの増生を促します。つまり、表面を滑らかにするだけでなく、肌の内部からハリを出す効果も、化学的な「傷」の修復過程によってもたらします。
創傷治癒を利用した各種治療のターゲットと目的
物理的・化学的刺激は、それぞれ得意とする肌トラブルの領域が異なります。症状に合わせて、どの深さにどのような傷をつけるかを選択します。
| 治療法 | 刺激の性質 | 主な改善目的 |
|---|---|---|
| マイクロニードリング | 針による物理的な穿孔 | ニキビ跡の凹凸、毛穴の開き、肌質の硬化改善 |
| フラクショナルレーザー | レーザーによる点状の蒸散 | 深いシワ、傷跡、肌の入れ替えによる若返り |
| マッサージピール | 薬剤による真皮層への化学刺激 | 肌のハリ・ツヤ向上、小じわ、軽度のたるみ |
血小板と成長因子の活用(PRP療法など)
自分の血液から採取した血小板を濃縮して肌に戻すPRP(多血小板血漿)療法も、創傷治癒のメカニズムを最大限に利用した治療です。本来、血小板は出血した際に傷口を塞ぎ、成長因子を放出して傷の治りを早める役割を持っています。
この「傷を治す成分」だけを抽出して、気になる部分に注入したり、マイクロニードリングで開けた穴から浸透させたりすることで、人工的に強力な創傷治癒反応を引き起こします。
傷がない場所に「傷を治す命令」だけを送り込むようなもので、これにより細胞は強力に活性化し、自身の力で組織を若返らせます。異物を使わず、自分の治癒力のみを利用するため、自然な仕上がりが期待します。
制御されたダメージ「フラクショナル」の理論
肌を再生させるためにはダメージが必要ですが、顔全体を一度に火傷させたり削り取ったりしては回復に時間がかかりすぎ、副作用のリスクも高まります。
そこで登場したのが、ダメージを「分割(フラクション)」して与えるという革命的な理論です。
健常組織を残すことによる急速な治癒
フラクショナル理論とは、レーザーや針で肌全体をベタっと焼いたり削ったりするのではなく、点状(ドット状)に微細なダメージを与える照射方法のことです。
例えば、肌表面の10%〜20%程度に小さな穴を開け、残りの80%〜90%は健康な皮膚として温存します。こうすることで、ダメージを受けた部分の周囲には必ず健康な細胞が存在することになります。
傷の治りは、傷口の縁から中心に向かって進むため、周囲に健康な組織が多ければ多いほど、細胞の供給がスムーズに行われ、上皮化(皮膚が塞がること)が劇的に早まります。
これにより、強力な再生効果を得ながら、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能になりました。
フラクショナル治療の安全性を示す要素
なぜ「点状」のダメージが安全で効果的なのか、その理由を以下の要素から確認します。
- ダウンタイムの短縮
微細な傷は24時間〜48時間程度で閉鎖するため、日常生活への支障が少ない - 感染リスクの低減
傷口が素早く塞がることで、外部からの細菌侵入のリスクを大幅に下げる - 副作用の抑制
熱が蓄積しすぎないよう放熱期間を設けることで、色素沈着や瘢痕化を防ぐ - 深達度の確保
照射面積を絞る分、エネルギーを深く届けることができ、真皮深層からの改善を図れる
スキャナー技術による均一なエネルギー伝達
均一かつ安全に「点状の傷」を作るために、現代の医療機器には高度なスキャナー技術や制御システムが搭載します。
人間が手作業でスタンプを押すように照射すると重なり(オーバーラップ)が生じて火傷のリスクが高まったり、逆に隙間ができすぎて効果にムラが出たりします。
しかし、コンピューター制御されたスキャナーは、設定された密度とパターンで正確にレーザーや針を配置します。
また、熱が特定の箇所に集中しないようにランダムに照射する機能などもあり、組織への過剰なダメージを防ぎながら、創傷治癒に必要な刺激を肌全体にまんべんなく行き渡らせることを可能にしています。
治療ゾーンと安全マージンの考え方
医師は、患者さんの肌質や目的に応じて「密度(Density)」と「深さ(Depth)」、そして「エネルギー量(Energy)」を調整します。
密度を高くすれば一度の治療効果は上がりますが、健常組織が減るためダウンタイムは長くなります。逆に密度を下げれば回復は早いですが、治療回数を重ねる必要があります。
この「治療ゾーン(変性させる部分)」と「安全マージン(残す健常部分)」の比率を適切にコントロールすることが、フラクショナル治療の肝です。無
理のない範囲で、しかし確実に組織を変性させるギリギリのラインを見極めることで、安全かつ効果的なコラーゲンリモデルを実現します。
リモデル期間中の栄養補給と紫外線対策
施術を受けて「傷」を作っただけでは、治療は半分しか完了していません。残りの半分は体がその傷を治し、新しいコラーゲンを作り上げる過程をいかにサポートするかにかかっています。
この期間の過ごし方が、最終的な肌の美しさを決定づけます。
コラーゲン合成に必要な栄養素の確保
線維芽細胞がコラーゲンを作り出す工場だとすれば、その材料となる栄養素が不足していては製品(コラーゲン)を作ることはできません。
特に重要なのがタンパク質、鉄分、そしてビタミンCです。コラーゲンはタンパク質の一種であり、食事から摂取したアミノ酸を原料として合成されます。また、鉄分とビタミンCは、コラーゲン線維を安定した構造にするための酵素反応に必要です。
施術後の増殖期から成熟期にかけては、普段以上にこれらの栄養素を意識的に摂取することが求められます。体内の材料不足はせっかくの創傷治癒スイッチを無駄にしてしまう可能性があるため、インナーケアも治療の一環として捉えます。
再生期間中に推奨する栄養素と役割
効率的な組織再生のために、積極的に取り入れたい栄養素とその働きを整理します。
| 栄養素 | 主な食材例 | 再生における役割 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 肉、魚、卵、大豆製品 | コラーゲンや細胞そのものの主原料となる |
| ビタミンC | 柑橘類、ブロッコリー、パプリカ | コラーゲン線維の結合を助け、強度を高める |
| 鉄分 | レバー、赤身肉、ほうれん草 | コラーゲン合成酵素の働きを助け、細胞へ酸素を運ぶ |
炎症後色素沈着を防ぐ徹底した遮光
施術後の肌はバリア機能が一時的に低下し、炎症が起きている状態です。この時期の肌は紫外線に対して極めて敏感になっています。
無防備に紫外線を浴びると、メラノサイトが過剰に反応し、「炎症後色素沈着(PIH)」と呼ばれる茶色いシミのような跡を残すリスクが高まります。これは傷跡が日焼けしてシミになるのと同じ原理です。
創傷治癒を綺麗な肌への生まれ変わりに繋げるためには、物理的な遮光(帽子、日傘)と日焼け止めの使用を徹底し、新たなダメージを与えない環境を作ることが重要です。特に施術後1ヶ月程度は、肌を守るための厳重な注意が必要です。
保湿による酵素反応の正常化
細胞が正常に働き、酵素反応がスムーズに進むためには、十分な水分環境が必要です。乾燥した環境では創傷治癒が遅れることは傷パワーパッドのような湿潤療法が一般的になったことからも分かります。
施術後の肌は乾燥しやすくなっているため、徹底した保湿ケアを行うことで表皮の再生を早め、真皮内でのコラーゲン産生環境を整えます。適切な湿潤環境は無駄な炎症を抑え、赤みの引きを早める効果もあります。
継続的な刺激によるエイジングケアの視点
一度のリモデル治療で得られたコラーゲンも、時間の経過とともに再び自然老化の影響を受けます。美容医療における創傷治癒の応用は単発のイベントではなく、定期的なメンテナンスとして取り入れることで、その真価を発揮します。
コラーゲン貯金の概念と老化予防
定期的に肌に創傷治癒のスイッチを入れることは、「コラーゲン貯金」をすることに似ています。何もしなければ加齢とともに減り続けるコラーゲン残高に対し、定期的な治療で「入金」を繰り返すことで、高い水準を維持することができます。
完全に老化してから治療を始めるよりも、ある程度の若さが残っている段階から、コラーゲン生成能力を刺激し続ける方が、肌の構造を維持しやすいと考える医師は多くいます。
年に数回、肌の奥底を刺激してリモデルを促すことは、5年後、10年後の肌年齢に大きな差を生む投資となります。
適切な治療間隔と肌の休息
「傷をつける」ことが良いからといって、頻繁に行えば良いというわけではありません。重要なのは、増殖期から成熟期にかけての「肌が作られている期間」を邪魔しないことです。
前の治療による炎症が治まりきらないうちに次のダメージを与えると肌は慢性的な炎症状態に陥り、逆に老化を早めたり、硬い瘢痕組織を作ったりする原因になります。
コラーゲンが増え、組織が再構築されるまでの期間(通常は1ヶ月〜数ヶ月)はしっかりと待ち、肌が回復したタイミングで次の刺激を与える。このリズムを守ることが、長期的な美肌育成において大切です。
定期的なリモデル治療がもたらすメリット
継続的に組織再生を促すことで、以下のような長期的なメリットが期待できます。
- 老化スピードの減速
コラーゲン密度を高く保つことで、重力によるたるみの進行を遅らせる - 肌代謝の維持
ターンオーバーや血流が良好な状態を保ち、くすみや乾燥を防ぐ - 急激な変化の回避
一度に大きな手術をするのではなく、少しずつ若さを維持するため、周囲に気づかれにくい自然な変化を保てる - 自己回復力の維持
刺激に対する応答性を保つことで、肌本来が持つ治す力を衰えさせない
よくある質問
- あえて傷をつけるとのことですが、痛みは強いですか?
-
治療の種類や設定出力、痛みの感じ方には個人差がありますが、多くの創傷治癒を利用した治療では熱や針による刺激を伴うため、ある程度の痛みを伴います。
しかし、現在は強力な表面麻酔クリームや笑気麻酔などを使用することで、痛みを大幅に緩和することが可能です。
我慢できる範囲の痛みであることがほとんどですが、不安な場合は事前のカウンセリングで麻酔のオプションについて相談することをお勧めします。
- 傷跡が残ってしまうことはないのですか?
-
適切な出力と手技で行われる限り、美容医療で意図的につける微細な傷が目立つ傷跡として残ることは基本的にありません。これは、肌が再生可能な範囲内(安全マージン)でコントロールされたダメージを与えているためです。
ただし、ケロイド体質の方や、施術後のケア(紫外線対策や摩擦の回避)を怠った場合には、稀に色素沈着や質感の変化が生じることがあります。医師の指示に従い、適切なアフターケアを行うことが大切です。
- 効果はいつ頃から実感できますか?
-
治療直後にも熱収縮による一時的な引き締めや、腫れによるハリ感を感じることがありますが、本来の「コラーゲン増生(リモデル)」による効果は施術後1ヶ月から3ヶ月にかけて徐々に現れます。
創傷治癒のプロセスには時間がかかるため、毎日鏡を見ていると変化に気づきにくいこともありますが、数ヶ月前の写真と比較すると、肌の密度やフェイスラインの変化を実感できることが多いです。
焦らず、組織が育つのを待つ姿勢が必要です。
- 肌が弱いのですが、治療を受けることはできますか?
-
敏感肌や肌が薄い方でも、創傷治癒を利用した治療を受けることは可能ですが、慎重な判断が必要です。肌の状態によっては刺激が強すぎて炎症が長引くリスクがあります。
そのため、まずはマイルドな設定から始めたり、事前に肌のバリア機能を高めるスキンケアを行ったりするなどの工夫を行います。
ご自身の肌質に合った治療法や設定を医師が見極めますので、診察時に肌悩みや過去のトラブルについて詳しく伝えてください。
- 他の美容施術と組み合わせることはできますか?
-
はい、組み合わせることで相乗効果が期待できる場合があります。例えば、ヒアルロン酸注入やボトックス注射と組み合わせることで、形状の改善と肌質の改善を同時に図ることができます。
ただし、同日に施術できるものと、間隔を空けなければならないものがあります。
創傷治癒の過程にある肌はデリケートなため、異なる刺激が干渉し合わないよう、治療スケジュールを医師と相談して組み立てることが重要です。
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