なぜ骨膜下なのか|中顔面の「重心」を扱うための深さ

目の下のクマや中顔面の形を考えるとき、脂肪の量に注目されることが多くあります。実際、脂肪量が見え方に影響している場合には、脱脂や脂肪注入といった治療が合理的な選択になることもあります。

しかし、実際に臨床の現場で患者様のクマを診察していると、脂肪の量だけでは説明しきれない見え方に出会うことが少なくありません。目の下の影が線ではなく面として広がる、頬のピークの低さや平坦さが疲れた印象をつくる、ヒアルロン酸などで量を調整しても顔全体の印象が大きく変わらない。こうしたケースでは、問題の中心が単純な脂肪量ではなく、中顔面の深い層の位置関係にあることがあります。

中顔面の深い層では、脂肪、支持靭帯、滑走スペース、骨膜といった構造が互いに関係しながら、顔の立体感の中心となる位置を形づくっています。そのため、こうした構造を理解するうえでは、骨膜上だけでなく、骨膜下という深さを前提に考える必要が出てくる場合があります。

このページでは、その理由を解剖と臨床の両面から整理します。

執筆:芝 容平|院長紹介|最終更新:2026年4月12日

中顔面の深層ユニットと「重心」

目の下から頬にかけての深い層には、SOOF、malar fat、deep medial cheek fat などの脂肪構造があります。解剖学的にはそれぞれ独立した名前を持つ構造ですが、実際の診察では、それらが支持構造との関係の中で一つのまとまりとして振る舞うことがあります。このまとまりを、このサイトでは深層ユニットと呼んでいます。

中顔面では、脂肪だけを個別に見ても、実際の印象を十分に説明できないことがあります。脂肪の配置、支持構造との関係、可動域などが組み合わさることで、顔の立体感の中心となる位置がつくられるからです。この位置関係は、臨床ではしばしば重心として表れます。

影の出方や頬の立体感、疲れて見える印象などは、この重心の位置によって大きく変わることがあります。つまり中顔面では、「どれだけ脂肪があるか」だけではなく、「その構造がどこにあるか」を見る視点が重要になります。

中顔面では「可動域」が構造で決まる

顔の脂肪は、自由に動くわけではありません。顔には retaining ligaments(支持靭帯)と呼ばれる構造があり、皮膚や脂肪の位置関係を支えています。

中顔面で特に重要なのが、Zygomatic cutaneous ligament(ZCL)です。この靭帯は頬骨周囲で皮膚と深層構造をつなぎ、中顔面の可動域や境界をつくっています。つまり脂肪は単独で存在しているのではなく、どこまで動けるかという可動域まで含めて構造が決まっているということです。

さらに中顔面には、facial soft-tissue spaces と呼ばれる滑走スペースが存在します。これは脂肪や筋肉のような部品ではなく、組織同士の間にある可動域です。表情の変化に合わせて組織がわずかに滑るように動くためには、このスペースが必要になります。

中顔面では特に、ORL(orbicularis retaining ligament)と ZCL の間にある prezygomatic space が重要です。目の下から頬骨の上にかけての構造は、このスペースを含めた関係の中で理解されます。

つまり中顔面では、

  • 靭帯
  • スペース
  • 脂肪
  • 骨膜

といった構造が、互いの関係の中で可動域と境界をつくっています。この視点を持つと、中顔面を単純な脂肪量だけで説明できない理由が見えてきます。

脂肪量の調整だけでは説明できないことがある

クマ治療では、脱脂や脂肪移動など、脂肪量を調整する治療が行われます。脂肪量が主な原因である場合には、こうした治療が合理的な選択になることも多くあります。

一方で、脂肪量を調整しても印象の変化が十分でないケースもあります。脱脂をしても影の印象が残る、脂肪を補っても疲れた印象が改善しきらない、目の下の段差は整っても頬の平坦感が残る。こうした見え方です。このような場合には、問題は脂肪の量ではなく、深層ユニットの位置関係にあることがあります。

中顔面の脂肪は、支持靭帯、滑走スペース、骨膜との関係の中で位置が規定されています。そのため量だけを変えても、構造の位置そのものが変わらなければ、印象の変化が十分でないことがあります。つまり中顔面では、「脂肪の量の問題」と「構造の位置の問題」を分けて考える必要があります。

骨膜上で SOOF 周囲を整えることで十分な方もいますが、ユニット全体の重心変化が必要なケースでは、浅い層だけでは印象変化が頭打ちになることがあります。

骨膜上と骨膜下は「扱える構造」が違う

骨膜上と骨膜下は、単に深さが違うだけではありません。それぞれの層では、関わる構造と可動域が異なります。

骨膜上では、主に皮膚、皮下組織、眼輪筋、浅い脂肪層などの関係を扱うことになります。これらは表情や皮膚の状態と密接に関係する層です。

一方、骨膜下では、骨格とその周囲の深い構造との関係を含めて考えることになります。ここでは、中顔面の土台となる構造との位置関係を扱うことになります。

つまり骨膜下は、単に深い層という意味ではなく、中顔面の土台に近い構造を考えるための深さです。

とくに支持構造が強く関わるケースでは、上から浅い層を整えても、深層ユニットの重心そのものは変わりにくいことがあります。 問題になるのは「どれだけ引くか」ではなく、どの深さでその構造を評価し、動かせる条件があるかです。

骨膜下という深さを考えるケース

中顔面の重心が関係する見え方には、いくつか共通した特徴があります。影が線ではなく面として広がる、頬の上が平坦に見える、目の下だけでなく頬まで疲れた印象がつながっている。こうした見え方です。

このような場合には、脂肪量の調整だけではなく、中顔面の深い層の位置関係を整理する必要が出てくることがあります。そのときに考える深さの一つが、骨膜下です。

骨膜下という深さを考えることで、中顔面の構造を土台側から見直す視点が生まれます。

ここで骨膜下を考えるのは、強く引き上げたいからではありません。 深層ユニットと支持構造の関係を、同じ深さで整理し、重心変化が成立する条件を見直すためです。

裏ミッドフェイスリフトとの関係

裏ミッドフェイスリフトは、こうした深層ユニットの問題を扱う治療の一つです。経結膜ルートから骨膜下へ到達し、中顔面の深い層の構造を整えることで、目の下から頬にかけての位置関係を見直します。

その結果として、クマの影、頬の平坦感、疲れて見える印象などが、同じ構造の中でつながって変化することがあります。

もちろん、すべてのクマが骨膜下の問題とは限りません。浅い層や中間層が主な原因である場合には、別の治療で十分なこともあります。大切なのは、治療名から考えることではなく、どの層に原因の中心があるのかを整理することです。