中顔面の深層ユニットとは|脂肪を“まとめて扱う”という考え方

目の下のクマや中顔面の形を考えるとき、「脂肪」という言葉がよく使われます。けれど実際の顔の構造では、脂肪は単独の塊として存在しているわけではありません。目の下から頬にかけての深い層には、いくつかの脂肪組織と、それらの位置関係を規定する支持構造があり、互いに関係しながら存在しています。

私はこのまとまりを「深層ユニット」と呼んでいます。クマの影や中顔面の立体感を理解するときに重要なのは、脂肪の量だけを見ることではありません。どの脂肪が、どの支持構造と、どの位置関係にあるのか。つまり、ユニット全体を構造として見ることが大切になります。

執筆:芝 容平|院長紹介|最終更新:2026年2月24日

中顔面には、複数の脂肪と支持構造が重なっている

目の下から頬にかけての深い層には、SOOF、deep medial cheek fat、malar fat など、いくつかの脂肪構造があります。これらはそれぞれ名前のついた構造ですが、実際の顔の中で完全に孤立して存在しているわけではありません。脂肪の周囲には、retaining ligaments(支持靭帯)、fascia(筋膜)、periosteum(骨膜)などがあり、それらが脂肪の位置と可動域を規定しています。

そのため中顔面では、脂肪を一つひとつ別の部品として理解するだけでは不十分な場合があります。複数の脂肪と支持構造が関係し合いながら、全体として一つのまとまりを作っている。その前提で見た方が、実際の見え方や治療設計に近づきやすくなります。

中顔面の層構造

皮膚表面から骨までを単純化すると、中顔面は皮膚、皮下脂肪、眼輪筋、SOOF、深層脂肪、骨膜、骨という順で重なっています。もちろん実際の解剖はこれほど単純ではありませんが、少なくとも「表面だけ」「脂肪だけ」で成り立っているわけではなく、複数の層が重なった構造として理解する必要があります。

クマの影や頬の立体感は、この層のどこか一つだけで決まるのではありません。各層の厚み、位置関係、連続性が組み合わさることで、最終的な見え方が生まれます。だからこそ、中顔面を理解するときには、量ではなく構造として見る視点が重要になります。

中顔面の層構造図

皮膚表面から骨まで。

  • 皮膚
  • 皮下脂肪
  • 眼輪筋
  • SOOF
  • 深層脂肪(malar fat / deep medial cheek fat:DNFC)
  • 骨膜

脂肪の量だけでは説明できない変化がある

クマの説明では、「脂肪が多い」「脂肪が少ない」という言葉がよく使われます。もちろん、脂肪量が見え方に影響することはありますし、実際にそこが問題となるケースもあります。ただ、診察を続けていると、それだけでは説明しきれない見え方により多く出会います。

たとえば、脂肪量そのものは大きく変わっていないのに影が強く見える方がいます。あるいは、目の下そのものよりも頬の平坦さが疲れた印象を強く作っている方もいます。脂肪を調整しても、顔全体の印象が十分に変わらないケースがあるのもそのためです。

こうした場合に関わっているのは、単純な脂肪量ではなく、深い層の位置関係であることがあります。だから中顔面では、「どれだけあるか」だけでなく、「どこにあるか」「どう支えられているか」を見る必要があります。中顔面の形を考えるときには、脂肪の量だけでなく、深層ユニット全体の位置関係を見る必要があります。

深層ユニットという視点

中顔面の深い層では、SOOF、malar fat、deep medial cheek fat といった脂肪に、支持構造が加わることで、臨床的には一つのまとまりとして振る舞うことがあります。解剖学的には別々の名前を持つ構造でも、診察の場ではそれぞれを完全に切り離して考えるより、まとまりとして捉えた方が実態に近いことがあるのです。

このまとまりを、私は深層ユニットと呼んでいます。ここで見ているのは、単なる脂肪量ではありません。脂肪の配置、支持構造との関係、可動域、そして重心まで含めた構造全体です。中顔面を考えるときに重要なのは、脂肪をどうするかだけではなく、そのユニット全体がどこにあり、どう振る舞っているかを見ることです。

深層ユニットは、支持靭帯によって可動域が決まる

顔の脂肪は、自由に動くわけではありません。顔には retaining ligaments と呼ばれる支持靭帯があり、皮膚や脂肪の位置関係を支えています。中顔面で特に重要なのが、Zygomatic cutaneous ligament(ZCL)です。

ZCL は頬骨周囲で皮膚側と深層構造をつなぎ、中顔面の可動域や境界を作っています。つまり中顔面の脂肪は、ただそこに存在しているだけではなく、「どこまで動けるか」まで含めて構造が決まっているということです。だからこの領域では、脂肪だけを単独で見ても十分ではありません。支持靭帯を含めた深層ユニットとして理解した方が、臨床に近い整理になります。

中顔面には、可動域を作るスペースがある

中顔面の構造を理解するうえでは、facial soft-tissue spaces という概念も重要です。これは脂肪や筋肉のような“部品”ではなく、組織と組織の間にある滑走スペースです。顔の組織は表情の変化に合わせてわずかに滑るように動く必要があり、その可動域を支えているのがこのスペースです。

中顔面で特に重要なのが、ORL と ZCL の間に位置する prezygomatic space です。目の下から頬骨上にかけての構造を考えるとき、このスペースの存在は避けて通れません。中顔面では、靭帯、スペース、脂肪、骨膜がばらばらに存在しているのではなく、それぞれの関係の中で可動域と境界が決まっています。この視点を持つと、なぜこの領域を単純な脂肪量だけで説明できないのかが見えやすくなります。

なぜ脂肪移動や脱脂だけでは説明できないことがあるのか

クマ治療では、脱脂、脂肪注入、ヒアルロン酸注入など、脂肪の量を調整する治療が行われています。これらは、原因が脂肪の量にある場合にはとても合理的ですし、実際に有効なケースも多くあります。ただ一方で、それだけでは説明しきれない、あるいは変化が十分でないケースもあります。

たとえば、脱脂をしても逆にティアトラフの段差が目立つことがあります。脂肪を補って、膨らませても老けた印象があまり改善できないこともあります。目の下の段差は整っても、頬の平坦化によって、のっぺりした印象が残ってしまうこともあります。こうしたときに重要となってくるのは、脂肪量そのものと言うよりも、中顔面の深い層の位置関係なのです。

中顔面の脂肪は、支持靭帯、soft-tissue spaces、骨膜との関係の中で存在できる位置が規定されています。そのため、量だけを変えても、構造の位置そのものが変わらなければ、印象の変化が十分でないことになります。つまり中顔面では、「脂肪の量の問題」と「構造の位置の問題」を分けて考える必要があります。

深層ユニットと重心

深層ユニットを考えるとき、私が重要だと考えているのが「重心」という概念です。中顔面では、複数の脂肪と支持構造が組み合わさることで、顔の立体感の中心となる位置が作られます。この重心の位置が変わると、影の出方や頬の立体感、疲れて見える印象まで変化します。

ここで私が見ているのは、「どれだけあるか」ではなく、「どこにあるか」です。クマや中顔面の形を考えるときには、脂肪の量だけでなく、深層ユニットの重心がどこにあるかを見る必要があります。この視点がないと、目の下の見え方だけを局所的に説明して終わってしまいます。

深層ユニットの問題は、加齢だけで起こるわけではない

深層ユニットの位置関係は、必ずしも年齢だけで決まるわけではありません。中顔面の骨格や脂肪分布には個人差があり、若い方でも、頬のピークが低く、中顔面が平坦に見えたり、クマの凹み部分の影が線ではなく面として広がっいたり、実年齢より老けて・疲れて見えることがあります。

つまり、深層ユニットの問題は加齢変化だけでなく、もともとの構造上の問題として存在することもあります。この点は、裏ミッドフェイスリフトが単なる高齢者向けの若返り手術ではなく、若い方にも良い適応となる場合があるという意味で非常に重要です。つまり、裏ミッドが必要になるかどうかを決めるのは年齢ではなく、あくまで構造です。

裏ミッドフェイスリフトとの関係

裏ミッドフェイスリフトは、この深層ユニットを扱う治療です。経結膜ルートから骨膜下へ到達し、中顔面の深層ユニットを含む構造を深い層から整えることで、目の下から頬にかけての位置関係を調整します。

その結果として、クマの影、頬の平坦感、疲れて見える印象を、同じ構造の中のつながりとして改善することができます。もちろん、すべてのクマが深層ユニットの問題とは限りません。浅い層や中間層が主に関わっている場合には、別の治療で十分なこともあります。だからこそ大切なのは、治療名から考えることではなく、どの層に原因の中心があるのかを整理することです。

中顔面脂肪コンパートメントと支持構造

専門的補足

解剖学的研究では、顔面脂肪は複数の脂肪コンパートメントに分かれることが示されています。Rohrich らは、顔面脂肪が単一の塊ではなく、解剖学的に分離した脂肪コンパートメントとして存在することを報告しました。また、SOOF は眼輪筋の深層に位置する脂肪層として記載され、中顔面の立体構造を考えるうえで重要な層です。

さらに中顔面では、retaining ligaments、facial soft-tissue spaces、fascia、periosteum などが脂肪の位置関係と可動域を規定しています。解剖学的にはこれらは個別の部品として整理されますが、臨床ではそれぞれを独立した要素として見るだけでは不十分なことがあります。実際には、脂肪コンパートメント、支持構造、スペース、骨膜が互いに関係しながら、中顔面の立体感と重心を作っています。

このページで用いている「深層ユニット」という概念は、こうした既存の解剖学的知見を踏まえたうえで、中顔面を臨床的に理解するための統合的な見方です。

参考文献

Rohrich RJ, Pessa JE.
The fat compartments of the face: anatomy and clinical implications for cosmetic surgery.
Plastic and Reconstructive Surgery. 2007.

Rohrich RJ, Ghavami A, Lemmon JA.
The anatomy of the suborbicularis oculi fat (SOOF).
Plastic and Reconstructive Surgery. 2009.

Wong CH, Mendelson B.
Facial soft-tissue spaces and retaining ligaments of the midcheek.
Plastic and Reconstructive Surgery. 2013.

Mendelson BC.
Anatomy of the retaining ligaments of the face.
Aesthetic Plastic Surgery. 2013.